治部くんちのにおいドミネーション
- White Rabbit Entertainmen
- 2020年2月21日
- 読了時間: 2分

毎朝オレと同じ車両に乗ってたクソババアを最近見かけない。
そいつがオレの印象に残っている理由は、そのババアが毎回タバコやら何やらが混ざったメチャクチャに苦い体臭を放っており、それが車両の半分ぐらいまでに拡散しているため、入った瞬間「またあのババアいるよ」と目視できなくとも瞬時にその存在を認知できてしまうためだ。
しかしそいつを長いこと見ていない。最近電車に乗った際に「そういえばあのババアいなくなったな」とふいに思ったのである。
印象に残った理由がもう一つある。
カレーの匂いを嗅ぐとどことなく子供時代の夕暮れを連想してしまうように、オレは車両いっぱいに拡散しているそのババアの体臭を嗅ぐ事で幼少期を過ごした実家のマンションの10階に住んでいた治部くん一家の記憶が呼び起されるのである。
どこの家にも独自の「家庭のにおい」っていうのがある。治部くんちはそれの拡散力が凄まじく、エレベーターで10階に降りた途端既にそれが縦横無尽に充満しているレベルであったのだ。
「ここ10階は全て治部家のテリトリーである」と言わんばかりに、エレベーターホールから10階のフロアの左端から右端までの一帯をその家庭のにおいを充満させる事によって占領していたのである。
毎朝の通期時に同じ車両に乗っていたそのババアの体臭を嗅ぐ事でオレの記憶の隅にあるあの頃の治部家のノスタルジックな記憶が呼び覚まされるのだ。
当時よく他人がどういう反応を返すのかが気になる年頃であったオレは治部くんちに遊びに行った際、彼がどういったレスポンスを返すのかが気になったあげく彼が大事にしている遊戯王カード「暗黒魔族ギルファー・デーモン」を目の前でこれ見よがしに下から上まで丁寧に舐め上げる行動をとって以降彼の母親からは嫌われてしまう。
苦い体臭を放つクソババアの存在を毎朝の電車で確認するたび、そんなちょっぴり苦い子供時代のノスタルジックな記憶が呼び覚まされる。
あのババアはそんなオレの思い出を呼び起こすために異世界からやってきた妖精的な存在だったのかもしれない。
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