イエローハット、小林くん

いつも水を弾く揮発性の素材を使用した黄色い帽子を身に纏って登校して来るのがコバヤシくんであった。黄色い帽子は彼のトレードマークである。

少林寺拳法をやっていたコバヤシくん。喧嘩になった際にはやたらと回転系のケリ技を使用してくる危険人物であった。

今考えればとてつもなく低レベルであったので恐らく週1日1時間とかのフィットネス感覚程度のヤツだったのだろうと思うのだが、本人からすれば「自分は少林寺をやっている」という自負があったのか、効果が薄いのは明白なのにやたらと少林寺っぽい攻撃を繰り出してくる。相手を倒すどころかカスりもせず、その後シンプルに口で罵られて泣かされるまでがセオリーであった。

オレとコバヤシくんは一時期軋轢があった。

流行っていたカードゲーム「デュエルマスターズ」が原因だ。当初オレは自分が持っているレアカードをコバヤシくんと交換予定であったが、その後タカシマくんがこのトレードへ参入、コバヤシくんよりも好条件でのトレードを申し出たためオレはタカシマくんとカードを交換した。コバヤシくんは「自分が先にトレードを申し出たのに酷い」的な感じで大泣きし、オレを裏切り者扱いしてきやがった。

そんなコバヤシくんと最後に実際に彼に会ったのは高校3年生の時、小学校の連中と集まって飯を食いに行ったのが最後だった。その時の彼はもうあの時の黄色い帽子を着用する事を止めていたのでオレは落胆した。

その後彼はどうなったかというと風の噂で聞いた所によれば自衛隊になったそうだ。大して体力も無く虐められ気質であった彼が自衛隊でやっていけるのかと思ったが、福島にも瓦礫撤去だかで派遣されたらしく、あのコバヤシくんが放射能を吸い込みまくって肉体労働に従事しているという事実を考えてみたらちょっとウケた。