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貪欲


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仕事中、行った物件のゴミ置き場手前ぐらいにナイロンかポリエステルだかのスーパーのマイバッグとして使う感じのヒョウ柄トートバックが落ちていた。「すげえ柄だな」とか喋りながら作業に入る手前中を見たら小銭がジャラジャラ入っていた。


「小銭入ってますよ」と一緒に作業している同僚へ喋ってる間にもう一つ封筒が入っている事に気づきチェックする。ザッと確認した感じ7000円の札が入ってた。「7000円入ってますよ」とテンション上がり気味に喋る。


なんやかんやあり同僚曰く警察に届けるのも時間がかかりめんどくさいため分りやすい位置に置いて次行こうみたいになり、お互い山分けともいかずそのまま置いて帰る。「いやあ1人だったらパクってますよ」的な事を言いながら「盗って帰るつもりはないですよ」的なアピールをしつつ本当はもの凄くこの金が欲しいのを覆い隠しながらも、しかし「いやオレこれもらって帰りますよ」という程の倫理観の無さをここで披露するのも嫌なので仕方がなくその現場を後にした。


オレはその後この7000円いくらかの入ったカバンの事をずっと考えていた。このしょうもないクソ仕事1日やるのとそう遜色のない額の金、その事がそれから2時間経つぐらいまで頭から離れなかった。その間オレは仕事が終わった後帰りに盗りに行こうと考えていた。


その現場が会社から地味に遠い位置にある。電車で1本とはいかず、2回ぐらい乗換しないといけない上に時間もかかるし通勤定期の範囲外にあるため電車賃もかかる。よって会社から現場まで片道1時間40分ぐらい小雨が降る中歩いて盗りに行った。


歩いている最中、仕事終わりで疲れているという事となんかこの日ずっと体調も悪いし小雨が降っている中傘を差しながら足下濡れ気味で歩いているという事も相まってこの7000円への欲望はとうに冷めていたのだが、それでも目的を達成させるため歩を進める。


この間「オレはなんて貪欲なんだ」と自分を誇らしく思っていた。オレ以外の大抵の人間なら「めんどくせえや」と考えそのまま家に帰ってシコって寝る。そういうヤツが大抵だろうと思われる中、オレはこんな状況でもその7000円を目指し1時間40分の道のりを歩いている。そんな自分はレアキャラなのだと、希少種なのだと、そういう事も感じつつその点において己は多数の人間より大分抜きんでているだろうと、少し誇らしく感じた。


こういう貪欲な自分、オレは好き。





 
 
 

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